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2025.07.24

在庫の品質管理を強化する販売管理システムの機能改善と運用の工夫

企業活動において、在庫は単なるモノの集合ではなく、キャッシュフローや顧客満足度に直結する重要な資産です。とくに食品、医薬品、精密機器など、品質が命となる商材を扱う企業にとって、在庫の品質管理は安定した供給体制と信用維持の基盤を支える要となります。しかし、在庫管理における「品質」という側面は、数量や金額の管理と比べると見落とされがちであり、システム上の対応も後回しにされるケースが少なくありません。そこで注目されるのが、販売管理システムの機能を強化し、品質管理の要件を業務に溶け込ませていく取り組みです。

販売管理システムは従来、受発注・売上・仕入・在庫・請求といった業務プロセスを効率化するために導入されてきましたが、昨今では在庫ロケーションやロット・シリアル管理、トレーサビリティなど品質に関連する領域にも機能が拡張されています。本稿では、在庫の品質管理を強化するための販売管理システムの機能改善と、現場運用での工夫について、3つの視点から考察します。

【目次】

1.販売管理システムで実現する先入先出と期限アラートによる品質担保

2.販売管理システムによる検品結果の記録と現場連携で品質を強化

3.販売管理システムの品質データ活用で販促戦略と在庫改善を実現

4.まとめ

販売管理システムで実現する先入先出と期限アラートによる品質担保

在庫の品質を担保するために最も基本となるのは、ロット情報や有効期限、入出庫履歴といった品質関連データの正確な管理です。特に食品や医薬品業界では、どのロットの商品が、いつ製造され、どこから入荷され、どの取引先へ出荷されたのかを明確に把握できることが、コンプライアンスやリコール対応に不可欠です。販売管理システムにおいても、こうした情報を商品マスタや在庫データと紐付けて一元的に管理できることが重要になります。

機能面では、ロット単位での在庫数量や保管場所を表示する機能、出荷時に期限切れ間近の在庫を自動でアラートする機能、逆に在庫の古い順に出荷する「先入先出(FIFO)」の出荷ロジックなどが求められます。さらに、仕入先・製造日・検品結果などの情報も紐付けられることで、万一品質問題が発生した際にも迅速かつ的確に原因を追跡し、対象ロットを特定できます。

こうした品質情報の管理は、エクセルなどの個別管理では限界があり、ヒューマンエラーのリスクも高まります。販売管理システムにロット管理やトレーサビリティ機能を実装し、日常業務の中で自然に情報が蓄積される仕組みにすることで、品質に関わる情報が「使える形」で常に更新され続ける状態を作ることが可能になります。

販売管理システムによる検品結果の記録と現場連携で品質を強化

在庫の品質を維持するには、現場における検品や定期点検といったフィジカルな対応が不可欠です。販売管理システムが担うのは、この「目視・測定による品質チェック」の結果を記録・共有し、次のアクションにつなげるための情報基盤としての役割です。たとえば、入庫時に検品結果を「良品/不良品」「使用可/保留」などで分類し、その結果を在庫ステータスとしてシステム上で管理する仕組みがあると、現場と経営の認識にズレが生まれにくくなります。

また、検品項目を業種や製品に応じてカスタマイズ可能にする設計も効果的です。食品であれば温度や包装状態、工業製品であれば寸法や表面状態など、必要なチェック項目を入力し、それが次回以降の改善や傾向分析に活用できるようになれば、現場の点検業務も単なる作業ではなく、品質管理としての位置づけが強化されます。

さらに、不良品が発生した場合の返品・廃棄・再加工といった対応履歴もシステムに記録し、どの時点で何が問題だったのかを蓄積することができます。ここで重要なのは、システム側の対応だけでなく、現場運用とのすり合わせです。検品結果の入力作業が煩雑すぎると現場が対応しきれず、逆に情報が記録されなくなるため、入力項目の最小化やスキャン対応など、現場負担を減らす工夫も求められます。

販売管理システムの品質データ活用で販促戦略と在庫改善を実現

販売管理システムに蓄積された品質に関する情報は、単に保管・記録するだけでなく、販売戦略に活かすことができます。たとえば、賞味期限が迫った在庫を自動でリストアップし、販促用の価格改定データとして活用すれば、在庫の廃棄ロスを防ぎながら利益を確保することが可能になります。システムにおいては「期限別の在庫一覧」や「ロット別の出荷推移」などの分析画面を用意し、営業部門が即座に販売施策に反映できるようにしておくことが望ましいです。

また、過去の不良品データや返品履歴などを分析することで、どの仕入先の商品に品質問題が多いか、どの保管エリアで劣化が早いかといった傾向を把握することもできます。これにより、仕入先の見直しや保管環境の改善といった具体的な対策を打つことが可能となります。販売管理システムにBI(ビジネスインテリジェンス)機能を連携させ、在庫品質に関わるデータを可視化・分析する仕組みを導入することも、有効な手段の一つです。

このように、品質に関する情報を経営判断や営業施策に活かすためには、部署をまたいだ情報連携が不可欠です。販売部門、物流部門、品質管理部門が同じデータを同じ視点で参照できる環境が整えば、在庫に対する戦略的な意思決定がよりスピーディーかつ的確になります。そのためには、販売管理システムが単なる業務ツールではなく、部門間をつなぐ情報共有のハブとして機能することが求められます。

まとめ

在庫の品質管理は、数量やコストだけでは測れない重要な経営指標のひとつです。これを支える販売管理システムには、ロット・期限・履歴の一元管理、検品結果の記録と活用、不良対応履歴の蓄積、販売施策との連動といった機能と運用が求められます。ただし、どれだけ優れたシステムを導入しても、現場での運用が定着しなければ成果にはつながりません。そのためには、操作性や入力のしやすさ、関係部門との連携など、実際の業務に寄り添ったシステム設計と運用フローの構築が不可欠です。

販売管理システムは、もはや単なる業務効率化のツールではなく、品質を維持し、企業の信頼を守るための基幹インフラです。今後、サステナビリティやコンプライアンスへの要求がさらに高まる中で、在庫品質管理の高度化はますます重要になります。品質に強い販売管理システムを構築し、運用で磨きをかけることで、企業は市場からの信頼を確かなものにできるのです。

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